ラノベ雑記Vol.15「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet」

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

海野藻屑は人魚で、
人魚は嘘つきで、
海野藻屑は可哀想な子で、
人魚は目立ちたがりで、
海野藻屑は殺されて――


今回紹介する「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet」は、「GOSICK−ゴシック−」などを代表作に持つ桜庭一樹さんの単品モノです。普段はシリーズものを好む私ですが、これにはやられました。ノックアウトです。
剣も魔法もファンタジーの欠片もない世界で奮闘する二人の少女――13才ながら家庭のために働きに出たいと思うリアリストの主人公、山田なぎさと、自分のことを人魚だと言い張る痣だらけの少女、海野藻屑。なんの能力も持たない二人だけど、だからこそ生きるために頑張る姿が映えます。
本編を読もうとしてまず最初に襲ってくる衝撃は、物語冒頭に記載された「ある事件の記事」。海野藻屑は本当に大嘘つきな女の子ですが、冒頭の記事のことを頭に入れて読み進めれば、決して海野藻屑のことを蔑むことなんてできません。彼女が喋るたびに、可哀想としか思えなくなります。


ライトノベルといえば、どんな作品でも最低限は非現実的な設定があるものですが、これにはそれがまったくない。登場するキャラ達はある意味ラノベ的なんだけど、本当に実在してもおかしくないくらい等身大の人間で、変な違和感を感じる。ラノベなのかラノベじゃないのかと。
そしてなんといっても、表紙の可愛らしいイラストからは想像も出来ないくらい、中身が「暗い」。そして「黒い」。読み進めていくと心がどんどん痛くなっていくというか、汚染されていくというか、綺麗になっていくというか。感じ方なんて人それぞれとは思いますが、誰しもが感じる感情は「切なさ」。これだけは間違いない。
ぶっちゃけライトノベルらしくないんです。でもライトノベルなんです。革命児、なんて言葉が安っぽくなるくらいの衝撃作で、例えるならライトノベルという領域に突然投下された爆弾みたいな存在。少なくとも、私の中では多大な被害を被り、もとい影響を受けました。
「実弾」「砂糖菓子」なんかの例えも独特で、何よりタイトルにセンスがある。桜庭一樹という作家の他の本にも触れてみたくなりました。
万人にオススメできる作品です。