機界の天使0
「これから喋ることは、メッセージとかそんなんじゃなくて、単なる独り言なんだけど」
どこともわからないような闇の中、錆びれた鉄の臭いのする人形に、少年は語りかける。
「この世界はもう駄目なんだ。だから新しい世界を迎えなければならない。といっても、この世界にはもう君しか存在しない。だから君がどんな選択をしようと、誰も文句は言わない。新しい世界を迎えるも良し、このままの世界で生き続けるも良し。選択が辛いなら、このまま眠ってしまうのもいい。君の、自由だ」
人形は、少年の言葉を聞く耳も、理解する心も持たない。形だけの、人型の鉄。
それでも、少年は人形を見据え、熱心に口を動かし続ける。
「君がどんな選択をするか、今の僕には想像もつかないけど……もし、もし君が新しい世界を望むなら――」
少年の声は、そこで途絶えた。
急に口を止め、迷うような瞳で人形の顔を見つめる。
反応を返さない鉄の人形に、少年はなにを思い、なにを考えているのか。
「ま、いっか」
続く言葉は発せられることはなく、少年は人形から離れていく。
鉄の人形は、光の通っていない無機質な瞳を少年の背中に向けつつも、なにもしなかった。
(プロローグ終わり)
(続く)